「何にも勝る無形の報い」を感じられるか
大学時代、冬休みの宿題として、
オーギー・レンのクリスマスストーリーを渡された。
その話自体は、全然記憶に残っていないのだけど、
その文章のタッチがとても独特だったこともあって、
「オーギー・レンのクリスマスストリー」をあの冬に読んだ、という印象は強烈に残っているんだよね。
それは、「クリスマス」というものを、
日本で考えられるような家族のあったかいストーリーでも、カップルの甘ったるいストーリーでもなければ、
イエスや聖者について語る教訓的なものでもなくて、
そういう世の中の騒がしさを離れたところにある、
なんとも言えない暖かさに私にはとても癒されたのかもしれない。
その文章を選んだ助教授のセンスがとても好きだったこともある。
彼の選んだ教材は、今でも何度も見返してしまう。
といいつつも、オーギー・レンのクリスマスストーリーの原文は手元になく、どこかで手に入れられないかしら?と考えていたところ、
「翻訳夜話」という本に、原文が載っているとのこと。
早速、手に取ってみたら、村上春樹さんと柴田さんの翻訳に関する講演に加えて、両者の和訳の記載がある本だった。
その冒頭が、強烈だった。
「もちろん翻訳というのは決して簡単な作業ではない。手間もかかるし、時間もかかる。大きな責任も負わなくてはならない。それに対する経済的な報酬も、ほとんどの場合、それほど大きなものではない。しかしそこには何にも勝る無形の報い(bounty)があるように、僕には感じられる。いささかオーバーな物言いをすれば、どこか空の上の方には「翻訳の神様」がいて、その自然な温かみを感じないわけにはいかないのだ。」
なんだかこの文章に出会って、私はとても救われたのです。
そうか、そう思う人が、ここにいるのか、と、安心した、とも言える。
こうした喜びってあるよね。
こうした温かみってあるよね。
これこそが、純粋な「好き」なんだろうな、と思う。
目に見える対価を求めていない。ただただ、その行為自体が、喜びなのだ。その行為自体に目的がある。それって、なんて純粋で、尊いのだろう、と、私は思うのだ。
「…感じる喜びは、ほかの行為では得ることができない特別な種類のものである」
「…そこには何にも勝る無形の報い(bountry)があるように、僕には感じられる。」
そういった喜びを、どこで味わう?
そんな喜びを、感じているかな?
有形の報いしか、見れなくなると、生きていくのがとても苦しくなる。
仕事も、子育ても、趣味も、関係性でもなんでも、
肩書きとか、お金とか、名誉とか、物とか、
そういうのが先に来ちゃうと、それしか見れなくなる。それが報酬になってしまう。
そのためだけに生きるのは、とっても悲しいことのように思う。
イエスが「また祈る時には、偽善者たちのようにするな。彼らは人に見せようとして、会堂や大通りのつじに立って祈ることを好む。よく言っておくが、彼らはその報いを受けてしまっている。
あなたは祈る時、自分のへやにはいり、戸を閉じて、隠れた所においでになるあなたの父に祈りなさい。すると、隠れた事を見ておられるあなたの父は、報いてくださるであろう。 」(マタイの福音書6:5-6)といったのは、そういう意味もあるんだろうな、と思う。
人に見せようと、外側に向かって、するんじゃないんだよ。
内なる、神聖なるものに向かって、黙々とやっていくだけなのだ。
そんな喜びを、心から大切にしていきたいな、と思う。
素敵な文章に、そして、そう生きる人との出会いに感謝です。
ありがとう。
“Watch out! Don’t do your good deeds publicly, to be admired by others, for you will lose the reward from your Father in heaven. When you give to someone in need, don’t do as the hypocrites do—blowing trumpets in the synagogues and streets to call attention to their acts of charity! I tell you the truth, they have received all the reward they will ever get. But when you give to someone in need, don’t let your left hand know what your right hand is doing. Give your gifts in private, and your Father, who sees everything, will reward you.
When you pray, don’t be like the hypocrites who love to pray publicly on street corners and in the synagogues where everyone can see them. I tell you the truth, that is all the reward they will ever get. But when you pray, go away by yourself, shut the door behind you, and pray to your Father in private. Then your Father, who sees everything, will reward you.”
Matthew 6:1-6